~このコーナーでは言葉や文化の違いをテーマとして世界で起こっている興味深いニュース 記事をピックアップしていきます。~
オリンピック・パラリンピックの話題が続きますが、オリンピックと言えばまずは開会式が注目されるところですね。今回の東京オリンピックで話題となり特にネットの世界を大いに賑わせたのが入場行進で使われたゲーム曲、そして人間ピクトグラムの演出ではなかったでしょうか。
このピクトグラム、筆者も大ファンになってしまいました。開催ごとにどんどん豪華になり、よりスケールの大きい派手な演出が競い合われる傾向にある中、ハイテクとはほど遠いアナログ感にまず意表をつかれましたが、見ているうちに思わず笑顔がこぼれ最後はすっかり感心してしまいました。ピクトグラムを世界に広めた日本ならではのクリエィティビティ溢れるスピリットをじわじわと感じさせてくれました。また、この演出には日本古来の演劇手法である”黒子”の存在を思わせるところもあり、日本文化を伝えるエッセンスが詰まっていたように思います。
では、ここで改めてどのようなパフォーマンスだったかご紹介しておきましょう。
Breathtaking Pictogram Performance at Tokyo 2020
Opening Ceremony
また、海外でも大きな反響を呼んだようです。例えばこんな風に紹介されていました。
Human pictograms stole the show at the Tokyo Olympics’ Opening Ceremonies
このピクトグラムはご存知の方も多いかと思いますが、1964年の東京オリンピックで正式に採用されました。初めてアジアで開催されるオリンピックのホスト国として”言葉の壁”をいかに解消していくか、ピクトグラムの果たした役割は大きく、先人たちの知恵と努力の賜物といえるのではないでしょうか。そうした経緯を下記の記事でご覧ください。
Innovative Symbols of Sport | Graphic Designing the Olympic Games
1964年の東京オリンピック以降、ピクトグラムは世界各国に普及することとなり、オリンピックでは開催されるその国ならではのピクトグラムが作成されました。ピクトグラムの存在をそれほど意識してこなかった筆者にとって、今回話題になったことで改めてピクトグラムの奥深さを知ることができました。ではここでオリンピックが開催された各国のピクトグラムの変遷をまとめた記事をご紹介します。
Olympic Pictograms: Design through History
ギリシャ大会では遺跡に刻まれた古代文字を思わせ、中国は漢字の元となった象形文字、またメキシコもマヤ文明時代の文様を思わせるようなピクトグラムが作られ大変興味深いですね。オーストラリア開催時にはブーメランを型どったピクトグラムに統一され、なるほどあの形はそういうことだったのかと今更ながら気付いた次第です。
そしてこのピクトグラムのパフォーマンスは世界中のデザイナー魂を大いに刺激したようです。デザイナーの視点からオリンピックのピクトグラムの変遷をとても分かりやすく説明してくれている動画がありましたのでご紹介しておきます。
Olympic Pictograms: Miniature Masterpiece
さて、pictogramは日本語では「絵文字」ということですが、pictograghという言葉もあり特に「象形文字」を指すときに使われるようです。グラフィックデザインの世界では文字形態に対する様々な専門用語があり使い分けがされているようですが、一般的には両者に大きな違いはなく使われているようです。
そして象形文字のようにその文字自体に意味を持っている場合、”表意文字” – ideogramと言います。中国や日本はideogramを代表する漢字を表記方法として採用しています。そして日本語の特異な点は、表意文字の漢字以外にひらがな、カタカナという表意文字でない表記方法も採用していることです。これらは文字単体では意味を持たず、英語のアルファベットのようにいくつかの文字が集まって言葉として音声となって初めて意味を持つ”表音文字” – phonogramと呼ばれています。日本語には中国由来の表意文字と英語のアルファベットのような表音文字の両方が表記方法として混在しているわけです。これが日本語を学ぶ外国人にとって難解な言語として、特に読み書きの点において絶望的にさせてしまっている要因の一つなのかもしれませんね(笑)
外国人視点での日本語を学ぶ難しさについては面白いテーマでもありますので、またこのコーナーで取り上げてみたいと思います。
では、ピクトグラムについてお話を戻しますが、元々ピクトグラムの考え方はヨーロッパで発祥したものですが、1964年の東京オリンピックを契機に日本の社会でピクトグラム文化が着実に浸透していきました。漢字という表意文字に親しんできた文化、また浮世絵のように平面的に単純化しながらもリアルに事象をデザインする文化、家紋のような意味を持たせたマークを受け継ぐ文化、そうした文化の土壌がピクトグラムをより発展させたと言えるのではないでしょうか。携帯電話の絵文字文化も日本ならではですね。
1970年には大阪万博が開催されましたが、今ではすっかりお馴染みのトイレのピクトグラム、あの赤と青の男女のマークは大阪万博で正式に採用されその後世界各国でも取り入れられたそうです。緑色の非常口を表すピクトグラムはデパートの大規模な火災事故をきっかけに日本で考え出されたもので、その後その素晴らしいデザイン性により世界に普及したそうです。現在では公共施設や交通機関から薬や日常品にいたるあらゆる説明書までピクトグラムは社会の隅々に浸透しています。また昨今の価値観の多様性を遵守するという観点から、上記のトイレマークの例ですと、女性が赤、男性が青、と決めつけるのはおかしいという議論も起こっており、社会に広く受け入れられるピクトグラムの姿が求められています。
また日本語という欧米言語とは全く異なる言語を有する日本にとって、ピクトグラムの役割は”言葉の壁”を超える第三の言語として、特に観光・旅行業界が大きく関心を寄せるところでもあります。
来日する外国人がピクトグラムによって日本での滞在をより快適に安全に過ごせるよう、またピクトグラムに動きをつけて日本の文化を発信しよう、そうした新たな試みも加わり、ピクトグラムはより新しく進化し続けているようです。
では、最後に日本の文化を伝えるピクトグラムを海外の視点でどのように紹介されているか、そのような記事をご紹介したいと思います。
280 new released pictograms – all you should know about japanese culture
普段何気なく目にしているピクトグラムですが、今回開催された東京オリンピックで世界に発信する日本のピクトグラムというものを再認識することができ、私たち日本人にとってもクール・ジャパンの新たな発見となったのではないでしょうか。
では、今回のお話はこれで終りにいたします。