~新年第一回目からは、このコーナーを利用してMother Gooseの世界を皆さんにご紹介しながら英語圏の人々がMother Gooseとどのような関わりを持っているのか、そしてそれが英語表現にどのような形で表れているのか、様々な角度から数回に分けて一緒に探っていきたいと思います。~
Mother Gooseの世界
第1回目の今回はMother Gooseについての概要をご紹介したいと思います。
日本では主にイギリスに伝わる子ども向けの童謡のような詩歌をMother Gooseと認識している方も多いと思いますが、厳密に言いますと元々イギリスで何百年にもわたって口承されてきた押韻詩が存在し、それはnursery rhymeと呼ばれています。
このnursery rhymeが18世紀中期に編集され、”Mother Goose’s Melody, or Sonnets for the Cradle”という題名で出版されました。このとき初めてMother Gooseという言葉が登場し、大変人気を博し、以来Mother Gooseとして親しまれるようになりました。
ここでなぜMother Gooseという言葉が使われたのか、ヨーロッパならではの面白いエピソードがあります。このMother Gooseの本が出版される1世紀以上前、フランスの詩人シャルル・ペローがシンデレラなどヨーロッパに伝わる童話集を出版しましたが、その本の副題がフランス語で「ガチョウおばさんの話」とあり、それが英訳されて”Mother Goose’s Tales”と紹介されイギリスでも大ヒットとなりました。このヒットにあやかりイギリス伝承童謡であったnursery rhymeの出版にあたりMother Gooseという言葉を拝借したというわけです。
当時、特にフランス、ドイツでは農家ではガチョウをたくさん飼っていてその番をしているのはおばあさんが多く、ひまなときは近所の子どもたち相手に昔話や歌を聞かせていたことから「ガチョウおばさん」という言葉が定着していたんですね。
そしてガチョウの鳴き声、グワッグワッという響きがおしゃべり好きなおばあさんのイメージともぴったり合っていたというわけです。
こうした背景でイギリスで初めて出版されたMother Gooseですが、印刷技術の進歩に伴い美しい挿絵とともに芸術的にも大変質の高い絵本が次々と出版されるようになり今日にいたるまで多くのファンを魅了しています。
日本にも伝承される童謡、詩歌、昔話などありますが、Mother Gooseが英語圏の人々に与える影響はもっと深く日常と関わっているようです。日常会話のなかでMother Gooseの一節を使ってたとえたり、冗談を言うのはよくあることで、政治・経済の記事、コマーシャル、小説、映画のせりふ、洋楽の歌詞など様々な場面でMother Gooseが登場し、もはや意識さえもしていない常識となっていて現代にもしっかりと生き続けています。こうした言葉文化が根強く残っているのは大変うらやましいこととも言えますね。
ですので、Mother Gooseのスピリットを少しでも分かち合うことができたら英語圏の人々がもつ言語文化、価値観、世界観を共有することができ、異文化間コミュニケーションにも大いに役立つのではないかと思います。
では、次回からのMother Gooseの世界をどうぞお楽しみに。
参考文献:映画の中のマザーグース( 鳥山淳子、スクリーンプレイ出版)、映画で学ぶ英語の世界(鳥山淳子、くろしお出版)、マザーグース・コレクション100(藤野紀男・夏目康子、ミネルヴァ書房)、大人になってから読むマザー・グース(加藤恭子、ジョーン・ハーヴェイ、PHP研究所)、マザーグースをたずねて(鷲津名都江、筑摩書房)、英語で読もうMother Goose(平野敬一、筑摩書房)、ファンタジーの大学(ディーエイチシー)、グリム童話より怖いマザーグースって残酷(藤野紀男、二見書房)