「世界のニュースから」第34号 ~Japandi?~

「世界のニュースから」第34号 ~Japandi?~

~このコーナーでは言葉や文化の違いをテーマとして世界で起こっている興味深いニュース 記事をピックアップしていきます。~

Japandi?

ここ数回に亘って訪日外国人にとっての日本の魅力についてお話ししていますが、日本の神社仏閣、お城、庭園が日本観光の大きな目的の一つであることは言わずもがなですね。そこには日本の歴史や文化、伝統的な建築様式、生活様式の全てが詰まっています。そしてこれら日本ならではの様式が海外で今新たなスタイルとして人気を博していると聞きます。今回はこの日本スタイルについてお話ししていきたいと思います。

そこで突然ですが、”Japandi”という言葉をご存知ですか?日本のJapanとスカンジナビアのScandiが合わさってできた造語ですが、特にインテリアの分野でデザインスタイルを表す言葉として使われているそうです。
日本の伝統的な美意識とスカンジナビアの実用的で無駄のない心地よさを良しとした価値観が融合して生まれたこの”Japandi”が新しいデザインスタイルとして欧米を中心にジワジワと人気を集めているようです。筆者も初めてこの言葉を知りましたが、具体的にどのようなものなのか皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

まずはインテリアやライフスタイルにJapandiをどのように取り入れたらよいか、という動画を一つご覧になってみてください。

How to Decorate Japandi

日本のデザインスタイルというものが海外の感性でどのように捉えられているのかがよく分かりますね。そして見ているうちにわが家の模様替えをしたくなってしまいましたが皆さんはいかがでしたか? 笑

また、Japandiについて詳しく説明されている記事を挙げ、その内容について少し深掘りしていきたいと思います。

What Is Japandi?

記事の冒頭で、JapanとScandinaviaは一見共通しているものがないように見えるが、”design elements”の点では”Each one’s aesthetics focus on simplicity, natural elements, and comfort”であると述べており、それが”Japandi”と呼ばれるものだとしています。
ここで出てきた”simplicity, natural elements, and comfort”という3つの言葉が”Japandi”のキーワードとなっているようです。一つずつ見ていきたいと思います。

まず”Simplicity”は日本の伝統的な美に対する価値観としてよく使われる言葉ですね。海外で説明される際は『侘び寂び』- “Wabi-Sabi” – というコンセプトでよく紹介されます。茶室の世界が代表されるイメージですね。また、盆栽や生花にも『侘び寂び』のコンセプトが色濃く表れています。

そのコンセプトの例として「美」に対して、左右対称、完璧性という点で日本と西欧での異なる捉え方が挙げられます。例えばフランスの庭園は左右対称という造形美に対してその完璧性を求める審美眼がありますが、日本庭園は自然のあるがままを良しとし、曲がっているもの、朽ちていくもの、非左右対称、すなわちアシメトリーであることに美を求める審美眼を持ちます。フランスの完璧であることを求めた造形美は不完全であることを美と捉えた日本とは全く真逆の捉え方であることが分かります。

江戸時代末期から日本の浮世絵がヨーロッパに伝わり、その斬新な構成、デザインがモネやゴッホといった絵画の巨匠たちに大きな影響を与えたことはよく知られていますが、上記で述べたように美に対する捉え方が全く異なっていたことを考えると当時のヨーロッパの芸術家たちには相当な衝撃であっただろうと想像します。そして当時の彼らの驚きが芸術家の中だけの一時的なブームで終わるのではなく、現代に至って世界の人々の実生活にまで根を下ろしてきているのはとても興味深い文化現象だと思います。

また、世の中がどんどん進化複雑化し、環境問題が重視される中で”minimalism”というコンセプトが注目されています。そうした動きの中で日本の”Simplicity” – “Wabi-Sabi”のコンセプトが世界で受け入れられてきているのは自然の成り行きと言えるのかもしれません。

ここで”minimalism”という視点で日本の価値観が海外でどのように解釈され、また提唱されているのか、一つの記事をご紹介します。かなり究極の”minimalism”を前提としている内容ですがご参考までに。

Japanese Minimalism: 5 Principles to Help You Declutter Your Life

記事の中でも触れていますが、これを読んで日本人が全て”minimalism”を実践し模範的なライフスタイルを謳歌していると思わないように、どこの国であろうと私たちの回りには物が溢れ”materialism”の中で生きている、ただ日本人のDNAには”minimalism”の考え方(mindset)が根底にあるのだ、と述べています。おっしゃる通りだと思います 笑

では次に挙げられているキーワード、”Natural elements”に移ります。自然との関わり合い方というのも日本の伝統的な美意識、価値観と深く関わっている要素ですね。日本家屋は内と外を厳格に分けない、家の中に自然の要素を取り込むよう造られると言われています。障子や縁側の存在はそうした日本家屋を代表する様式で、障子は開け閉めすることで内と外の境を自由に調節し、また閉めていても自然光を取り込む役目を果たし、雪見障子のような、名称の通り外の景色を切り取って内の空間に取り込む工夫は日本人が持つ独特の美意識を反映した様式と言えます。また家の周りを囲った縁側も内と外をつなぐ中間的な役割を果たしていると言えます。

また具体的な例を挙げますと、日本の神社仏閣は極めて開放的な造りであると言われています。確かに中が丸見えです 笑。鳥居をくぐることで世間との境界線は一旦引かれますが、その神聖な場に入っても建物と回りの木々などの自然が渾然一体となって一つの空間を創り出しており、建物によって仕切られる厳格な内の世界というものは希薄です。この点において欧米の教会などとは大きく異なりますが、宗教的な厳格さの違いという点以外に、自然との関わり合い方の違いがよく現れている例ではないかと思います。

ここで自然との関わり方を示す日本ならではの様式で「借景」を挙げておきます。借景は中国を起源とした東アジアに古くから伝わる造園技法の一つで、庭園という限られた範囲を超えてその向こうに広がる景色をも庭園にうまく取り込み鑑賞する技法です。日本では近代建築のデザイン技法として「借景」という概念は確立されているそうです。借景を活用した有名な日本庭園は数多くありますが、徹底した管理の元にある島根県の足立美術館や比叡山を借景とする円通寺や修学院離宮などは有名ですね。また「借景」は英語では“borrowed scenery”などと訳されていますが、”Shakkei”という日本語のままで通用し、庭園業界ではそのコンセプトは広く世界で知られています。”Shakkei”をどのように自宅の庭に取り入れたらいいか、などという海外の記事がネット上でも多く見られました。

そして最後の”Comfort”ですが、これはScandinaviaの価値観を表す”Hygge”と大きく関わっています。昨年このコーナーの会員様向け記事でスウェーデンの”Lagom”について触れましたが、この”Lagom”と同様に北欧独特の価値観を表す言葉です。”Hygge”という言葉自体はデンマーク語で、デンマーク人のライフスタイルで特に重視している「居心地がいい空間」「楽しい時間」という意味を持つ言葉だそうです。
”Hygge”については下記の記事をご覧ください。

What do we mean by “hygge”?

デンマークの人々が暮らしに「心地良さ」や「安らぎ」を求めるのはその気候風土とも深く関係しているようです。記事の中にもありますが、1年の大半が寒くて日差しも少なく雨の多いデンマークでは、家の中でいかに心地よく過ごすかが大きなテーマとなります。この点において日本のような四季のはっきりした気候風土とは大きく異なりますが、”Hygge”の心地良さの要素となる、シンプルであること、自然体であること、が日本の「侘び寂び」のコンセプトと非常にマッチし、また主張よりも協調し合うことを良しとする考え方も日本と相通じるところがあるようです。これはデザインで言うと、例えば色の選び方にも表れ、よりナチュラルで心地よい色としてニュートラルカラーが好まれます。いわゆる無彩色と呼ばれる白、黒、グレーを基本とした色であって、色味があってもくすみを持たせたスモーキーカラーが好まれます。この点においても木と紙、自然物を中心とする日本家屋で使われる素材が持つナチュラルカラーや床の間に飾られる墨絵といった日本スタイルとも通じるものがあるようです。
“Japandi”、ジャパンとスカンジが融合したこの言葉に込められた意味を3つのキーワードから見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

では最後にJapandiが人気を集めるようになっている理由をCNNの記事でご覧いただき今回のお話の締めにしたいと思います。

Japandi’: Why Japanese-meets-Scandi design is taking over the internet

記事によると2020年の冬にグーグル検索で”Japandi”というワードが急上昇したそうです。これはCovid-19の影響でstay- homeを強いられた人々が少しでも快適に家で過ごせるよう、より落ち着きや安らぎの空間を求めるようになったことが”Japandi”への関心の引き金となったとしています。記事の中で次のように述べられています。

“I think a lot of people were looking for a style that is relaxing,” said Laila Rietbergen, author of the new book “Japandi Living” in an email interview. “The serene and calming aesthetics of Japandi style and the craftsmanship items that are more durable fits perfectly within these needs.”

世の中がどんどん多様化し、それはある意味様々な価値観が融合し共有し合う社会が形成されてきていることにもなると思いますが、この”Japandi”という小さな現象からもそうしたグローバルな動きが見られます。そして日本で育まれてきた文化や価値観が日本人だけのものにとどまらずこうして形を変え進化し世界に発信され受け入れられ共有されるのはとても素晴らしいことではないでしょうか。

では今回のお話はこれで終わりにいたします。

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