「世界のニュースから」第19号 ~Mother Gooseの世界 そのはち 誰が殺したクックロビン?(Who killed Cock Robin?)~

「世界のニュースから」第19号 ~Mother Gooseの世界 そのはち 誰が殺したクックロビン?(Who killed Cock Robin?)~

~このコーナーでは言葉や文化の違いをテーマとして世界で起こっている興味深いニュース 記事をピックアップしていきます。~

Mother Gooseの世界 そのはち 誰が殺したクックロビン?(Who killed Cock Robin?)

私事で恐縮ですが、マザーグースについて色々調べているという話を従兄弟にしたところ「だれが殺したクックロビンのこと?」と言われてびっくりしました。私より年下とはいえ世間で言えばいいオジサン世代、趣味はバイクや釣りといったアウトドア派の彼の口からマザーグースの「誰が殺したクックロビン」が出てくるとは予想もしていなかったのです。しばらくしてようやく気が付きました。彼が言っていたのはマザーグースのクックロビンというよりアニメの『パタリロ』だったのです。

そんなことがあって、パタリロにまで使われたこのクックロビンの唄について興味が湧き今回取り上げてみることにしました。
パタリロのナンセンスギャグはテレビで放映された「クックロビン音頭」でさらに人気に火がついたことはみなさんもご存知かと思います。筆者もこのクックロビン音頭が頭のどこかに残っていて従兄弟が言ったことに時間差で気が付いたというわけです。

『パタリロ』ではもっぱらギャグでしたが、元はといえば『ポーの一族』という少女漫画でクックロビンの唄がモチーフとして使われ、それをパロディ化したんですね。日本の漫画やアニメでマザーグースから引用される例は他にもあるようですが、日本の漫画・アニメは映像美・テーマの深さ・音楽性と非常に質が高く国民的文化遺産ですよね。日本のアニメを通して世界から日本の文化・価値観・風土がどのように見えているのか、これもとても興味深い話題ですが、またお話できる機会にということにしておきましょう。

さて、マザーグースの”Who killed Cock Robin?”に戻りましょう。Robinはコマドリ、Cockは雄鳥のことです。コマドリは雄と雌で見た目に大きな違いがないことから昔から雄とされていたそうです。コマドリとつがいとされたミソサザイは雌鳥と見られていたそうです。
コマドリはイギリスでとても愛され人気があり国鳥にも選ばれています。また、コマドリの胸が赤いことから「イエス・キリストのいばらの冠の棘を抜こうとして血に染まり胸が赤くなった」という言い伝えを受け、クリスマスカードにはコマドリが描かれることも多いそうです。また、ピーター・ラビットでもコマドリがいつもピーターの傍らに付き添い見守っています。
このようにイギリス中で愛されれているコマドリの死から葬式までを唄ったのが”Who killed Cock Robin?”です。4行詩が全部で14連もある長い詩ですが、訳ととともに全部掲載しますのでぜひご覧になってみてください。

Who killed Cock Robin

Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
with my bow and arrow,
I killed Cock Robin.

Who saw him die?
I, said the Fly,
with my little eye,
I saw him die.

Who caught his blood?
I, said the Fish,
with my little dish,
I caught his blood.

Who’ll make the shroud?
I, said the Beetle,
with my thread and needle,
I’ll make the shroud.

Who’ll dig his grave?
I, said the Owl,
with my pick and shovel,
I’ll dig his grave.

Who’ll be the parson?
I, said the Rook,
with my little book,
I’ll be the parson.

Who’ll be the clerk?
I, said the Lark,
if it’s not in the dark,
I’ll be the clerk.

Who’ll carry the link?
I, said the Linnet,
I’ll fetch it in a minute,
I’ll carry the link.

Who’ll be chief mourner?
I, said the Dove,
I mourn for my love,
I’ll be chief mourner.

Who’ll carry the coffin?
I, said the Kite,
if it’s not through the night,
I’ll carry the coffin.

Who’ll bear the pall?
We, said the Wren,
both the cock and the hen,
We’ll bear the pall.

Who’ll sing a psalm?
I, said the Thrush,
as she sat on a bush,
I’ll sing a psalm.

Who’ll toll the bell?
I said the bull,
because I can pull,
I’ll toll the bell.

All the birds of the air
fell a-sighing and a-sobbing,
when they heard the bell toll
for poor Cock Robin.

「だれがコック・ロビンを殺したの?」

だれがコック・ロビンを殺したの?
わたしよ、とスズメが言った
わたしの弓と矢で
わたしたコック・ロビンを殺したのよ

ロビンが死ぬのをだれが見たの?
わたしよ、とハエが言った
わたしのこの小さな目で
わたしがロビンの死ぬのを見たのよ

だれがロビンの血を受けたの?
わたしよ、と魚が言った
わたしの小さな皿で
わたしがロビンの血を受けたのよ

だれが白衣を仕立てるの?
わたしよ、とカブトムシが言った
わたしの針と糸で
わたしが白衣を仕立てましょう

だれがお墓を掘るの?
わたしよ、とフクロウが言った
わたしのつるはしとシャベルで
わたしがロビンの墓を掘りましょう

だれが牧師になるの?
わたしよ、とミヤマガラスが言った
わたしの小さなご本で
わたしが牧師になりましょう

だれが世話役になるの?
わたしよ、とヒバリが言った
暗がりの中でなかったら
わたしが世話役になりましょう

だれがたいまつを持つの?
わたしよ、とベニヒワが言った
すぐに持ってきますよ
わたしがたいまつを持ちましょう

だれが喪主になるの?
わたしよ、とハトが言った
いとしいロビンを悼みます
わたしが喪主になりましょう

だれが棺を運ぶの?
わたしよ、トンビが言った
夜通しでなかったら
わたしが棺を運びましょう

だれが棺の覆いを持つの?
わたしたちよ、とミソサザイ
夫婦で声をそろえて言った
わたしたちが覆いを持ちましょう

だれが賛美歌を歌うの?
わたしよ、とウタツグミ
茂みの小枝にとまって言った
わたしが賛美歌を歌いましょう

だれが鐘を鳴らすの?
わたしよ、と雄牛が言った
なにしろわたしは力持ち
さて、コック・ロビンよ、お別れだ

そら飛ぶ鳥は1羽残らず
ため息ついて、すすり泣いた
あわれなロビンの死を悼む
鐘が鳴るのを聞いたとき

内容は、コマドリがスズメの弓矢で殺され、それを見たのがハエ、血を皿に受けたのが魚、白衣を作ったのがカブトムシ、墓を掘ったのがフクロウ、牧師になったのがカラス、助手がヒバリ、松明を持ったのがヒワ、喪主がハト、棺を運んだのがトンビ、棺の覆いを持ったのがミソサザイ、賛美歌を唄ったのがツグミ、そして最後に鐘を鳴らしたのが牛というわけです。

題名だけを見ると弓矢で殺したスズメが責められそうなものですが、そんな様子は一切なくみんなの人気者で愛されていたクックロビンの死をみんなで悼みみんなで葬儀の段取りを決めていく様子が微笑ましくもあります。
また、当時の葬儀がどのように行われていたかがよく分かることも興味深いですね。殺された者の血を皿に受けるのは、特に高貴の身である場合に怨霊をなだめる儀式として行われていたそうです。
このことからもコマドリ対するイギリス人の特別な思い入れが伺えますね。

ちなみにコマドリはこのような鳥です。

イギリスに行く機会がありましたらぜひ見つけてみてください。
photo credit: Massimo Magrini FOTO5806 copia via photopin(license)

さて、この”Cock Robin”のモチーフは文学・音楽・映画・新聞や雑誌の記事など幅広く取り入れられています。
”Who killed Cock Robin?”からコマドリ=被害者、
“I, said the Sparrow, with my bow and arrow, I killed Cock Robin.” からスズメ=殺人犯、
“I, said the Fly, with my little eye, I saw him die.” からハエ=目撃者、
という分かりやすい構図からきています。

普段の会話でも推理小説やテレビドラマを見ていて「誰が犯人だと思う?」というところを”Who killed Cock Robin?”と聞いたり、「被害者」を”Cock Robin”、「殺人犯」を”Sparrow”、「目撃者」を”Fly”に置き換えてお互いに推理し合うこともよくあるそうです。面白いですね。

また、“Who killed Cock Robin?”は新聞の見出し、小説のタイトルなど至るところで見られますが、みなさんの記憶に新しいところでは北朝鮮の金正男氏がマレーシアの空港で殺害されたとき、イギリスBBC、アメリカCNN、ABCなどいずれもニュースの見出しは”Who killed Kim Jong-nam?”だったそうです。この簡単な英語の見出しの裏にCock Robinという伏線があったとは、筆者も今になって初めて知り、改めてとても興味深く映りました。

イギリスならではの例では、イギリス政府が1948年に表明したインフレ対策からの引用を紹介します。

“Who’ll kill inflation?
I, says John Bull,
I speak for the nation –
We’ll work with a will.
And we’ll thus kill inflation.”

「誰がインフレを止めるだろう?
私、とジョン・ブル
私が国を代表してこう表明します
我々は強い意志を持って奮闘し
そうやってインフレを止めます」

ちなみにJohn Bullとはイギリス国家や典型的なイギリス人を擬人化した名前として出ているそうです。政治の世界でもこのようにマザーグースの韻を使って声明が出されるというのはいかにもイギリスならではですね。

いかがでしたでしょうか?パタリロのクックロビン音頭をきっかけに紐解いていくこととなった今回のマザーグース、またその世界に新たな一歩を踏み込むことができたように思います。
さて最後に、日本でこの詩を初めて訳したのは誰だと思いますか?マザーグースの訳者としてとても有名な北原白秋氏に先立つこと11年、あの女性画で有名な竹久夢二氏なんですね。最初の4行だけ訳されたのが残されているそうです。
では、夢二による訳をご紹介して今回の記事の締めくくりとしたいと思います。

「誰そ、駒鳥を殺せしは?
雀はいひぬ、「我こそ!」と
わがこの弓と矢とをもて
我れ駒鳥を殺しけり」

日本語に違和感なく溶け込み簡潔で格調高い訳ですよね。
それではこの辺でおわりにしたいと思います。

参考文献:映画の中のマザーグース( 鳥山淳子、スクリーンプレイ出版)、映画で学ぶ英語の世界(鳥山淳子、くろしお出版)、マザーグース・コレクション100(藤野紀男・夏目康子、ミネルヴァ書房)、大人になってから読むマザー・グース(加藤恭子、ジョーン・ハーヴェイ、PHP研究所)、マザーグースをたずねて(鷲津名都江、筑摩書房)、英語で読もうMother Goose(平野敬一、筑摩書房)、ファンタジーの大学(ディーエイチシー)、グリム童話より怖いマザーグースって残酷(藤野紀男、二見書房)、マザーグース1(谷川俊太郎・訳、講談社文庫)、マザーグース案内(藤野紀男、大修館書店)、不思議の国のマザーグース(夏目康子、柏書房)

By H. L. Stephens – From The Project Gutenberg eBook, Death and Burial of Poor Cock Robin, by H. L. Stephens
http://www.gutenberg.org/etext/17060

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