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Mother Gooseの世界 そのに ハンプティ ダンプティ(Humpty Dumpty)
マザーグースで知っている唄、中にはマザーグースと知らず聞き覚えのある唄もあるでしょうが、ハンプティ・ダンプティはその名前はどこかで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
筆者もマザーグースで知っているというよりルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくるこの挿絵 ーアリスの挿絵で有名なJohn Tenniel氏によるものですねー で大変馴染みがあります。
このハンプティ・ダンプティが卵であったこと、そしてマザーグースで歌われているのはなぞなぞで、その答えが「卵」であったこと、皆さんご存知でしたでしょうか?
まずは歌詞を以下にご紹介いたします。
Humpty Dumpty sat on a wall, Humpty Dumpty had a great fall. All the king’s horses, And all the king’s men, Couldn’t put Humpty together again.谷川俊太郎さんの訳を載せておきます。ハンプティ・ダンプティ へいにすわった ハンプティ・ダンプティ ころがりおちた おうさまのおうまをみんな あつめても おうさまのけらいをみんな あつめても ハンプティを もとにはもどせない |
ヨーロッパには古くから卵のようにいったん壊れたら元へもどらないことを擬人化した唄が各地で存在していましたが、イギリスではハンプティ・ダンプティという名で登場させています。Humpty Dumptyという響きが卵の転がる感じにぴったりですね。
そしてこの塀の上にいる危なっかしいハンプティ・ダンプティが意味するのは(ナンセンスを楽しむマザーグースですが、ここではあえて意味を問うてみます)、塀から落ちてしまったらもうどうしようもない、元にはもどせないという事態です。そんなどうにもならない事態を象徴しているのが塀の上にいるハンプティ・ダンプティなのです。
このハンプティ・ダンプティが持つ塀から落ちて壊れたら元には戻らないというニュアンスが英語圏の人々にどのように浸透しているのか、映画での例をご紹介します。
1976年に公開された『大統領の陰謀』というウォーターゲート事件を題材にしたアメリカの映画があります。原題は”All the President’s Men”ですが、ハンプティ・ダンプティの”And all the king’s men”から引用されたそうです。私たち日本人は原題を直訳して「全ての大統領の側近たち」?、まあそういうことかなぐらいで終わってしまいそうですが、マザーグースで育った英語圏の人々はこのタイトルを見ただけで大統領の側近たちがどう頑張ったところでニクソンを元に戻せない、塀の上で今にも転がり落ちるHumpty Dumptyの姿が思い浮かぶとのことです。この原題の背景にそんな意味があることを知っていると知っていないでは大きな違いですね。
他にも映画やドラマのせりふでハンプティ・ダンプティからの引用はよく見られます。ハンプティ・ダンプティの丸く太った姿やツルツル頭などから容姿を冗談めかしく表現する際にも引用されるようです。海外の映画やドラマを見ていて今まで気づかなかった新たな発見をしてみるのも楽しいのではないでしょうか。
それではこのへんでハンプティ・ダンプティのお話をおわりにします。
参考文献:映画の中のマザーグース( 鳥山淳子、スクリーンプレイ出版)、映画で学ぶ英語の世界(鳥山淳子、くろしお出版)、マザーグース・コレクション100(藤野紀男・夏目康子、ミネルヴァ書房)、大人になってから読むマザー・グース(加藤恭子、ジョーン・ハーヴェイ、PHP研究所)、マザーグースをたずねて(鷲津名都江、筑摩書房)、英語で読もうMother Goose(平野敬一、筑摩書房)、ファンタジーの大学(ディーエイチシー)、グリム童話より怖いマザーグースって残酷(藤野紀男、二見書房)
[photo credit: Brechtbug Humpty Dumpty – Alices Adventures in Wonderland 8510 via photopin (license)]