~このコーナーでは言葉や文化の違いをテーマとして世界で起こっている興味深いニュース 記事をピックアップしていきます。~
大谷翔平選手はUnicornでGoat?
大谷翔平選手がアメリカ野球リーグMLBで大活躍されていることは皆さんもよくご存知のことと思います。今まで野球に無関心だったのに大谷翔平選手の試合だけは観るようになった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。かく言う筆者も大谷翔平選手の活躍を日々楽しみにしている立派な俄かファンの一人となっています(笑
そこで今回は見た目もカッコ良くて、打って良し、投げて良し、走って良し、性格良しの良いこと尽くし、そんな大谷翔平選手の活躍振りが野球の本場アメリカでどのように英語で表現されているか、探ってみたいと思います。
2018年に二刀流を引っ提げて物議を醸しながらもMLBデビューを果たした大谷翔平選手ですが、右肘の負傷からトミージョン手術を受けることになり、その後の長いリハビリ期間という苦難の時を経てようやく2021年に二刀流として完全復活しました。そして同年、オオタニ旋風を巻き起こした、いわゆる”SHO-TIME”の幕開けとなる大活躍を収め、MVPを満場一致で獲得したことは日本でも大いに話題になりましたね。
そこでまずは去年のニューヨークタイムズの記事から、二刀流というアメリカ野球界の誰もがまだ半信半疑でいる中で、投打一流のプレーをする大谷翔平選手を目の当たりにした記者の驚きようと称賛の表現を拾っていきたいと思います。
Shohei Ohtani Is Just the Star America’s Pastime Needs
尚、この記事の解説にあたりまして『大谷翔平の活躍、米メディアの表現も「規格外」ありきたりの言葉では表せない』の内容を一部参考とさせていただきました。
まず、タイトルに”America’s Pastime Needs”とあるように野球はアメリカの国民的娯楽としてアメリカ建国の歴史とともに歩んできたスポーツです。他に国民的競技としてはバスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーなどがありますが、スピード感に欠け点数がどんどん入るわけでもない野球は人気に年々陰りが見えてきていると言われています。記事文中でも”The game is listing.”と表現されています。”list”に「(船などが)傾く」という意味があるんですね。そんな中でアメリカ人の心の中にいつまでもノスタルジックな郷愁として根強く残っている野球の楽しさ、面白さを大谷翔平選手が呼び覚ましてくれている、そんな思いがタイトルから伝わってくるようです。
では、記事本文の表現を見ていきますが、大ブレークのシーズンであることは”breakout season”、ホームランを打つのもhitではなく”unleashed a home run”、ただ呆然とボールの行方を見守る観客の様子を “a state of stunned reverence”などと、尋常ではない様子を表現する単語を特に選んで使用しているようです。
また、”Shohei Ohtani has spent all season bending the arc of what is possible. “と言っていますが、何が可能であるかを捻じ曲げている、そんなシーズンを送っている、という意味のようです。とても凝った表現ですね。そして彼のことを”one of the greatest spectacles in all of sports”と言って称賛し、また”the first bona fide two-way player in generations”という表現で稀に見る二刀流と讃えています。このbona fideはラテン語由来で「真の」という意味があるそうです。このようにあえてラテン語の響きを持ってきて普通ではないという特別感を出しているのかもしれませんね。
ボールを投げる、という表現もthrowではなく”blaze”という言葉を使っています。日本語ではなんと訳せばいいのでしょうか。「剛速球を投げた」とでも言いましょうか。日本語では基本的に「投げる」という動詞を中心に表現するしかありませんが、こういう時に英語の豊富な動詞の威力を感じずにはいられません。
そこで、英語の「投げる」にあたる言葉を辞書サイトから拾ってみました。
「速球を投げる」では以下のような言い方がありました。
▪ air it out〈米俗〉
▪ bring it〈俗〉
▪ burn a hole
▪ burn one〈俗〉
▪ have velocity
▪ pitch a fast ball
▪ fire〈話〉
「速球を渾身の力で投げ込む」だと”cut loose”、「速球を狙ったところに投げ込む」だと”spot one’s fastball well”、「バッターの打ちやすいコースに速球を投げ込む」だと”challenge the hitter”、「剛速球で打者を空振りさせる」は”blow a fastball past a batter」などという表現がありました。
YouTube動画を見ていたらアメリカのコメンテーターたちが大谷翔平選手の投球について”fire!””fire!”と連呼していましたが、こういうニュアンスを肌で感じることができればネィティブ感覚に一歩近づいたと言えるのかもしれませんね。
「快速球を投げる」では以下の表現がありました。
▪ bum a hole〈米俗〉
▪ burn over〈米俗〉
▪ gas it up〈米俗〉
▪ pump gas〈米俗〉
▪ sling hash〈米俗〉
▪ throw BBs [gas, fire, pellets]〈米俗〉
▪ uncork one〈米俗〉
「煙が出るほどの快速球を投げ込む」だと”blow smoke”、「うなりを立てるほどの快速球を投げ込む」だと”bring the noise”という表現もあるようです。
ほとんどが俗語として表記されていますが、野球の球を投げるという表現だけでもすぐにこれだけ出てくるのですから驚くばかりです。動詞が豊富で名詞と柔軟に結び付く英語言語文化ならではの語彙の豊かさが伺えます。野球中継などを英語で聞いていても何を言っているのやら全くついていけないのはこうした日常英語の豊富な語彙が分からないせいかと改めて思い知らされました。”He throws a fast ball!”なんて言ってる人はあまりいないんですね(笑
また、打者にとってお手上げの、日本語で言えば「エグい球」とでも言いましょうか、そういう投球をよく”nasty”という言葉を使って表現しています。大谷翔平選手自身も大量得点差がついた試合で相手側が送り出した野手投手に対して三振をしてしまったとき、大喜びしたその投手にユーモアを込めて”What a nasty pitch!”とボールにサインしてあげたことが話題にもなりました。
さて、記事の中に戻りますが、大谷翔平選手が所属するエンジェルスの前監督だったJoe Maddon氏の言葉が紹介されています。
“We all romanticize what it would have been like to watch Babe Ruth play,” Maddon said. “You hear this stuff, and it’s a larger-than-life, broader concept. Now we’re living it. So don’t underestimate what we are seeing.”
筆者の野暮な解説は不要かと思いますが、”So don’t underestimate what we are seeing.”というあたりに「今目の前で起こっていることをよく見ておくんだよ、2度と見られないかもしれないんだから」とマドン前監督から言われているような、そんな気がしました。
また、地元ロスアンジェルスで長く野球を通して日系人コミュニティと関わってきたRon Wakabayashi氏のコメントでは大谷翔平選手の活躍を”means a ton”と述べ、特にアジアコミュニティに与える影響の大きさを次のように語っています。
“Babe Ruth! A guy who is deeply embedded in the American psyche, I mean, wow. Ohtani, doing what he’s doing, he means a ton to this community. Especially now.”
そしてコロナ禍でヘイトを受けやすくなってしまったアジア系アメリカ人にとって大谷翔平選手の存在は”how Ohtani’s magisterial season has created a soothing, bolstering effect”と、” soothing”で”bolstering”、日本語では「癒されて元気になる」というところでしょうか、そんなふうに表現しています。大谷翔平選手の強さとガッツを”Ohtani’s strength and moxie”と言っていますが、この”moxie”という言葉はアメリカの俗語で「勇気」とか「ガッツ」を意味するそうです。
また、記事の最後で大谷翔平選手が通訳を通してしか公でコミュニケーションしないことに触れており、これはアメリカで有名なスポーツアナリストが英語を話さない大谷翔平選手に苦言を呈したことがあり、その後多くのバッシングを受け発言に対して謝罪したという出来事もあったのですが、記事では英語を話す話さないは関係ない、として次の文章で締めくくっています。
“His pitching and his hitting, and the graceful, two-way fluidity he’s using to dominate in the major leagues say plenty.”
”Dominate”という言葉もピッチャーに対してよく使われますが、”Shohei Ohtani dominated on the mound”というように言います。”dominate”は「支配する」という意味ですから、「今日の試合は大谷翔平の独壇場だ、彼が全てを牛耳っている」という感じでしょうか。また、ピッチャーに対しては”on the mound”、バッターに対しては”at the plate”と表現します。
ここで、筆者が常日頃思っていることですが、英語は称賛する語彙がとても豊富であるということについて触れてみたいと思います。日本語だと称賛の語彙としては「すごい」「すばらしい」「見事だ」のようにかなり限られた中で、そこに修飾語や日本語独特のオノマトペで表現を豊かにしているように思います。ですので叙述的に表現するのであれば日本語ならではの繊細で緻密な表現も可能ですが、日常会話で一言で称賛の意を表そうとすると語彙が少ないため何でもかんでも「すごい!」で済ませてしまっているように思います。テレビのバラエティ番組などでもとにかく「すごーい!」の連発ですよね(笑
では英語だとどのような表現で「すごい」を表すのでしょうか。大谷翔平選手を話題にした海外Youtube動画のコメント欄から無作為に拾い出してみました。
his consecutive insane nights with…
his outstanding gentlemanship…
I‘ve seen the greats play. Shohei is phenomenal.
best baseball player and possibly best athlete…
Just an amazing athlete.
Shohei Ohtani is just incredibly talented. Just incredible…
Crushing 40 homers and throwing 100 mph is very impressive.
The kid is special.
Shohei is an unbelievable athlete.
Ohtani was just perfect in every way.
He is very respectful and super humble.
just totally immersed in game strategy and excellent execution of each play…
he’s awesome to just see the replays of his batting and his pitching…
Guess that means he is the most valuable in the league…
Ohtani is definitely a remarkable player.
What a monster athlete…
Truly an admirable ball player.
he was magical and the stadium was electric.
It’s crazy how many things he can do .
His emotions were awesome!
見ていけばまだまだたくさん出てくると思います。太字で示した単語が日本語の「すごい」に当たると思いますが、一語だけでも「すごい!」として使えますよね。どうですか、語彙が豊富だと思いませんか?英語をより深く習得するにはやはり語彙力は欠かせないのではと思った次第です。
またこうした生の英語を見ていく中で大谷翔平選手のことを”unicorn”あるいは”goat”という言葉で表現している例がたくさんあることに気付きました。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、一応この辺りについてもご紹介しておきます。
例えばYoutubeの見出しから拾ってみたのが以下です。
“Better Than Babe Ruth?? Shohei Ohtani Is A UNICORN!”
“MVP Shotime: Justin Verlander thinks unicorn Shohei Ohtani should be favored over Aaron Judge”
“Kristaps Porzingis isn’t a unicorn, SHOHEI OHTANI IS! – Tony Kornheiser on trade rumors”
“GOATS go back-to-back!! Mike Trout and Shohei Ohtani hit back-to-back homers!”
“High Heat | Mad Dog claims “Shohei Ohtani is The GOAT” with 2 HRs, 3 RBI in Angels top Tigers”
“Let’s Pump the Brakes on the Ohtani/GOAT Hype”
“MLB Network BREAKDOWN Will Aaron Judge is AL MVP rather Shohei Ohtani? Who is The GOAT in MLB world?”
Unicornは日本語でもユニコーンとしていわゆる一角獣という架空の動物であることはよく知られていますね。架空の動物だからとてもユニークで唯一無二のことを言うのだろうという察しはつきます。まさしく辞書サイトでunicornを見ると、“a person or thing that is rare and highly valued,”と述べられていました。このサイトでは語源なども詳しく述べられていますのでご興味ありましたら以下をご覧になってみてください。
What’s Happening With The Word “Unicorn”?
ちなみにイギリスの国章には左にライオン、右にユニコーンが配置され、ライオンはイングランド、ユニコーンはスコットランドをそれぞれ表しているのだそうです。
また、goatについては語義として
”used to refer to or describe a person or thing that is considered to be the best ever in a particular field, category, etc., especially in sports”
と書かれており、まさに今の大谷翔平選手を表現するのにピッタリですね。そしてヤギのgoatではなく、”Greatest Of All Time”の頭文字を取ったもので、特にスポーツ分野でよく使われるということが分かりました。なるほど、、、です。
ということで野球を通して色々な英語表現を見ていきましたが、やはり興味のあることだと楽しさがあり、これも有意義な語学学習のアプローチのひとつではないでしょうか。まだまだ例を挙げていけばたくさん出てくるのですが、一旦これぐらいにしておきたいと思います。
さて、上記ニューヨークタイムズの記事から1年以上が経過しましたが、大谷翔平選手の活躍は今年も続いており、去年のホームラン数には及ばないもののピッチャーとしての技量はさらに進化し、投打共にベーブルースの記録を更新し続ける活躍ぶりにMLB関係者の驚きは続いているようです。
そんな様子がよく分かる動画を一つご紹介しますので、耳で聞く称賛の英語、驚きの英語表現を楽しんでいただければと思います。
下記の動画は今年6月、大谷翔平選手がバッターとして8打点をあげ、その翌日ピッチャーとして13奪三振を奪った時を話題にしています。大谷翔平選手の今後語り継がれることになるであろうエポックメーキングな出来事だったわけですが、この驚きが今のアメリカ野球界の驚きそのものと言えるのではないでしょうか。
“It’s Wild!” – Rich Eisen Marvels at Shohei Ohtani’s Continued 2-Way Exploits | The Rich Eisen Show
ここで少し筆者なりの解釈を入れさせていただくと、”once again”、大谷翔平がまたやってくれた!と始まり、”not even Babe Ruth did”とベーブルースさえも成し得なかったと何度も強調しています。また、”There’s no word for it.”と言いつつ、”exceptional” “unprecedented” “specutacular”という単語を立て続けに言っている様子から、もう何て言っていいか分からない、という気持ちがよく伝わってきます。また、”He’s insane what he’ doing.”と大谷翔平選手のやっていることのあり得なさを”insane”という言葉で表しています。
また”back to back”という言い方が「連続◯◯」という意味でよく使われるのですが、ここでは普通ならその人の”career”あるいは”life time”で成し得ることを大谷翔平選手は”back to back nights”でやってしまう、本当に”impressive”だと言っています。さらにこの1日目がバッターで8打点、2日目がピッチャーで13奪三振という2日続けての偉業に対しては、もう一度言うよ、”the next night”なんだよ、と念を押した後で”one sleep later”と子供に言い聞かせるように言い直している辺りは、なんとか自分の思いをわかって欲しいという気持ちが伝わってきて思わず笑ってしまいました。
今まで野球解説を英語で聞くなんてことはあり得なかったし、聞いたとしてもほぼ理解不能な筆者でしたが、今回記事を書くこともあって毎日のように聞いていたら耳もだいぶ慣れてきたようです。これもオオタニ効果ですね(笑
そして今年の大谷翔平選手の話題として毎日のように騒がれているのが、ニューヨークヤンキースのジャッジ選手とのMVP争いです。現在のところホームラン数年間60本を優に超える勢いのジャッジ選手が有力のようですが、年間を通してMVP論争の渦中に大谷翔平選手がいるということだけでもすごいですよね。MVPは”Most Valuable Player”のことですが、MVP論争においてはこの”Value”という言葉について何をもってvalue(価値がある)とするかが争点となっているようです。所属するチームを勝利に導く”value”であるのか、野球界全体にとっての”value”と考えるのかという辺りで様々な意見が飛び交っているようです。中にはOutstanding(傑出して素晴らしい)Playerということで”Most Outstanding Player”、MOPを新設してそれぞれ受賞させよう!と唱える人もいるなど、喧々諤々の論争が繰り広げられています。この論争だけでもアメリカ人の考え方が垣間見られ、また改めて一つのテーマとしてここでお話ししたくなるほど興味深いものがあります(笑
ではここでそんな大谷翔平選手にすっかり惚れ込んでしまったアメリカ専門局FOXスポーツのアナリストであるベン・バーランダー氏をご紹介しておきます。ベン氏はサイヤング賞も受賞し現在MLBアストロズで投手をしている兄を持つアメリカ野球界を隅々まで知るスポーツプロフェッショナルです。そんなベン氏が大谷翔平選手の類稀な存在に魅了され、自分の番組で独自にShoheiコーナーを設けたり、また今年8月には大谷翔平選手の野球のルーツを求めて来日し、岩手県を訪れるなど、精力的に活動されている方です。
では、最後にそんな大谷翔平愛に溢れるベン・バーランダー氏の解説動画をご紹介しておきます。自分の番組で週に一度Shohei Newsのコーナーを設けて解説していますが、アメリカでジャッジ派とショーヘイ派に分かれるとすると、まさにショーヘイ派を代表するような方です(笑
また、筆者には何のことだかさっぱり分からないいわゆる”stats”、様々な指標となる数字がたくさん出てくるのもアメリカならではと思います。野球中継を見ていても日本よりはるかに投球や打撃のコース、スピード、様々な記録に対する数字が出てきます。一方でこうした数字に縛られ過ぎず、かつての”old school baseball”を見直そうという声も聞かれますが、やはりアメリカは数値が大好きでデータの管理能力に優れていることはこういうところからも伺えますね。では、ShoheiT シャツを着て熱く語るベン氏は下記でお楽しみください。
Shohei Ohtani (大谷翔平) News: Ohtani continues to rewrite MLB history | 日本語字幕付き | Flippin’ Bats
さて、いかがでしたでしょうか。この記事が出る頃にはレギュラーシリーズも終わる頃で大谷翔平選手の今年の成績も確定しているでしょうが、いずれにせよ今年もまた大活躍の年であったことに間違いはないでしょう。日本人選手がこれだけ活躍し、またアメリカの野球ファンに愛されていることに私たちは誇らしさを感じますね。来年も再来年も息の長い選手として愛され活躍し続けてくれることを願っています。そして10年、20年経った時、マドン前監督が言っていたようにあの時見ていたのは”once in a generation”の出来事だったと思い返すことになるのでしょうか。そう思わせてくれるだけでもまさに現代の”American dream”とも言えるような「夢」を与えてくれている存在と言えるような気がします。
皆さんはどうお感じになりますか?
では、今回のお話はこれで終わりにいたします。