「世界のニュースから」第16号 ~Mother Gooseの世界 そのご Ring-a-Ring o’ Roses)~

「世界のニュースから」第16号 ~Mother Gooseの世界 そのご Ring-a-Ring o’ Roses)~

~このコーナーでは言葉や文化の違いをテーマとして世界で起こっている興味深いニュース 記事をピックアップしていきます。~

Mother Gooseの世界 そのご Ring-a-Ring o’ Roses

マザーグースの世界も5回めとなりました。今回は’Ring-a-Ring o’ Roses’、『バラの輪になって踊ろう』です。子どもたちが輪になってぐるぐるスキップしながら回り歌う、日本で言えば「かごめかごめ」のような遊び唄です。

Ring-a-Ring o’ roses,
A pocket full of posies,
A-tishoo! A-tishoo!
We all fall down.

バラの輪になって踊ろうよ
ポケットに花束いっぱい
ハックション! ハックション!
みんないっしょに総倒れ

非常にシンプルな4行詩です。この後に続く2番、3番の歌詞も色々と追加されているようです。
なぜこの唄を選んだかと言いますと、この唄の起源について様々な説がありますが広く民衆に信じられているのは、この唄がヨーロッパで起こったペストの大流行に由来しているからです。現在世界中で新型コロナウィルスの感染拡大に見舞われている私たちですが、時代を遡って同じく感染症の流行に見舞われた当時の人々に思いを馳せてみたいと思いました。

ペストは古代より何度となく流行し、特に14世紀に起こったペストは黒死病(Black Death)と呼ばれ世界規模で大流行し、およそ8000万人から1億人ほどが死亡したと推計され、ヨーロッパでは人口の4分の1が死亡したとされますからその規模たるや想像を絶するものがあります。しかし現在の私たちに無関係の昔の話とは言ってられませんね。イギリスでは特にロンドンに甚大な被害をもたらした1665年のペスト(Great Plague)がより人々の記憶に生々しく残っており、人口の3分の1以上、10万人もの人々が亡くなったとされています。さらに翌1666年にはロンドン大火が起こり市内の家屋80%以上が焼失したそうですが、この大火によりペスト菌の媒介源となったネズミなどが駆逐されたというのですからなんとも皮肉な話です。この時代に生きた人々の不安や恐怖、社会の混乱たるやいかばかりのものだったことでしょう。
ちなみに現在の新型コロナウィルスで深刻な感染爆発が起こってしまったイタリアですが、ペストパンデミックが起きたときも北イタリアは住民のほとんどが全滅するなど甚大な被害を出しています。1377年にヴェネツィアで海上検疫が始まりその日数が40日だったことからイタリア語の「40」を表す語「quaranta」から「quarantine(検疫)」という言葉ができたそうです。「quarantine」は「隔離する」という意味でもありYoutubeなどを見ていると外出できない人たちがどのように自宅で過ごしているか工夫する動画が見られます。 ‘Morning Routine In Quarantine’, ‘Daily Quarantine Knitting’, ‘Quarantine Monologue’, ‘a day in my life quarantine style’など、 必ず「quarantine」という言葉が使われているのでこの言葉を知らなかった筆者にとってはとても新鮮に映りました。

では、’Ring-a-Ring o’ Roses’の歌詞をひもといていきましょう。
BBCのサイトで以下のような説明がされていました。

The ‘roses’ are the red blotches on the skin.
The ‘posies’ are the sweet-smelling flowers people carried to try to ward off the plague.
‘A-tishoo’ refers to the sneezing fits of people with pneumonic plague.
‘We all fall down’ refers to people dying.

一行目の ‘roses’はペストの兆候である赤い発疹。まさにrosy rashを意味しています。さらに’Ring’という言葉からも輪型の発疹を連想させます。アメリカでは一般的にこの一行目は’Ring-around-the-rosy’という歌詞で広まっています。

二行目の ‘posies’はposy(=bouquet)の複数形ですが、当時ペスト予防や病人の悪臭を消すため人々がハーブの束を持ち歩いていたことを指しています。

三行目の ‘A-tishoo’はそのものズバリ、ペストの末期症状のくしゃみのことです。亡くなる直前に大きなくしゃみをしたとされています。

四行目の ‘We all fall down’はまさに倒れる→死んでしまったということです。子どもたちの遊びでもここで皆がいっせいにしゃがみこんで尻もちをつきます。

マザーグースでは人の一生や生と死にまつわる唄が多くありますが、そういった人生の一大事を淡々と呆気なく、人間の誕生から死までを直線的に簡潔明瞭に表現することがあり、時としてそれがとても残酷に映ります。
そこにはキリスト教的死生観、死の瞬間から魂は神の元に召され残された肉体とは明確な境界線ができ、より客観的に死というもの、あるいは死体そのものを捉えているようにも思えます。仏教的な死生観を持つ日本人には生と死の間に明確な境界線はなく、例えば成仏できない魂がこの世にまだ存在するかのような意識を持ったりしますが、そこから死とか死体に対する恐れやタブー視も生まれます。「死」を表す「四」を不吉な数字として避けるとかそういう感覚ですね。
また、バラの花輪になって踊ってくしゃみが出て倒れてしまう、という生から死までが単純な言葉で繰り返し歌われる様は呪文のようでもあり、輪になってぐるぐる回るという動作にもどこか呪術的な儀式を想像させると解釈する研究者もいます。

この歌詞が文献として登場したのは19世紀に入ってと比較的新しいことからペストとの関係を否定する説も多いそうですが、『オックスフォード童謡事典』などイギリスで猛威を奮った1665年のペスト(Great Plague)に由来すると説明している文献はたくさんあります。
ペストの恐ろしい記憶はずっと語り継がれてきたであろうし、その中で恐ろしさが幾分風化され子どもたちが日常の遊びで死んでいくさまをナンセンスに歌ったりしていたのではないかなと筆者なりに想像しています。子どもの世界はあっけらかんとひどいことを言ったりするものです。日本でもありますね。「おまえの母さんでべそ、電車に轢かれてぺっちゃんこ」などと。

さて、ここで ‘A-tishoo’について面白いくだりを見つけました。
日本でもくしゃみをすると誰かに噂されているという言い伝えがありますが、イギリスではそれぞれの曜日別にくしゃみに対する言い伝えがあり、マザーグースにも’Sneeze on a Monday’として掲載されています。
Sneeze on a Monday, you sneeze for danger;
Sneeze on a Tuesday, you’ll kiss a stranger;
Sneeze on a Wednesday, you sneeze for a letter;
Sneeze on a Thursday, for something better;
Sneeze on a Friday, you sneeze for sorrow;
Sneeze on a Saturday, your sweetheart to-morrow;
Sneeze on a Sunday, your safety seek —
The devil will have you the whole of the week.

イギリス人のくしゃみに対する思い入れの強さを感じますね(笑
また、くしゃみをすると自分の魂が体から飛び出してしまうと信じられていたことから、代わりに邪悪なものや悪魔が侵入してこないようくしゃみをした人に’Bless you’とか’God bless you’と言うようになったということも付け加えておきましょう。

さて、話題をペストの大流行に戻しますと、イギリスのある村で語り継がれてきた悲劇をご紹介しておきます。
イギリス中部ダービーシャー州イーム(Eyam)という村では1905年から毎年8月の最終日曜日に特別礼拝が行われています。
1965年にイギリスで大流行したペスト(Great Plague)がロンドンからイーム村に飛び火した際、近隣の村々に移らないよう自分たちの村を自ら隔離したことにより犠牲となった村人たちに対する鎮魂です。
このときのペストはロンドンから村の仕立屋に送られてきた生地にペスト菌を持ったノミがついていたことから村中に蔓延し、収束するまでの15ヶ月間に350人の村人のうち260人が亡くなったそうです。
自ら村を隔離したことで(self-quarantine)、近隣の村は難を免れたわけですが、イームの村人たちの自己犠牲の精神は現在に至るまで語り継がれ讃えられています。村の観光パンフレットにはバラの花輪のイラストとともにこのマザーグースの唄が掲載されているそうです。子どもたちが輪になって楽しそうに遊ぶ光景の裏側にこんな悲惨なストーリーが秘められているところにマザーグースの奥深さが感じられます。

最後に、この唄が映画などでどのように使われているかいくつか例を挙げてみます。

トム・クルーズでお馴染みの映画『ミッション:インポッシブル2』は子どもたちがこの唄を歌う場面で始まります。

Ring around the roses, a pocket full of posies, ashes, ashes, they all fall down.

ネコルヴィッチ博士が殺人ウィルスの入ったカバンを手に研究所から出てくる場面ですが、その後博士の乗った飛行機が墜落(fall down)して灰(ashes)になってしまうという運命を暗示する非常に不気味な演出となっています。

またディズニーアニメでも輪になってぐるぐる回る遊びから追いかけ回す様子を表現するさいに用いられています。
『101匹わんちゃん』では、ダルメシアンの子犬の毛でコートを作ろうと企む悪党たちがロンドン中の子犬を誘拐しようと追いかけ回す場面です。

Shut the door, Horace. We’ll close in on’em. I’ve had enough of this ring-around-the-rosy.

ホリス、ドアを閉めるんだ。追いつめたぞ。追いかけっこはもうたくさんだ。

というように、子犬を追い回す様子を’ring-around-the-rosy’と言っています。マザーグースの唄を知らないとこの意味は分からないですよね。

また、ビジネスの場面でもこのようにぐるぐる回るという遊びから転じて「(議論や話の筋などが)堂々巡りをする」といった意味で使われたりもします。
例えば会議で議論が堂々巡りで煮詰まってしまったとき、

We are playing ring-around-the-rosy for more than an hour. Let’s take a break.

などと言うようです。なかなか洒落た言い回しじゃありませんか?

それでは、今回のお話はこれぐらいで終わりにします。みなさん、どうぞStay strong!でいてくださいね。

参考文献:映画の中のマザーグース( 鳥山淳子、スクリーンプレイ出版)、映画で学ぶ英語の世界(鳥山淳子、くろしお出版)、マザーグース・コレクション100(藤野紀男・夏目康子、ミネルヴァ書房)、大人になってから読むマザー・グース(加藤恭子、ジョーン・ハーヴェイ、PHP研究所)、マザーグースをたずねて(鷲津名都江、筑摩書房)、英語で読もうMother Goose(平野敬一、筑摩書房)、ファンタジーの大学(ディーエイチシー)、グリム童話より怖いマザーグースって残酷(藤野紀男、二見書房)

photo credit: Ringa-round-a rosesSmith

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